「「「魔女狩りだ! 魔女狩りだ! 狂った魔女を火炙りにしろ!」」」 ――ある熱い日差しが降り注ぐ夏の日のことです。  人里の広場、幻想郷全員とも思えるほどの群集がそこに集まり、口を揃えて同じ言葉を叫んでいました。  群集たちが取り囲んでいるのは、七色の魔法使い――アリス・マーガトロイドでした。 「「「狂った魔女を殺せ! 狂った魔女を殺せ!!」」」  群集の叫びは止まり様子はまるでありません。  それもそのはず、みんな恐怖に駆られてそうしているのですから。  幻想郷には人外で溢れています。それこそ、妖精から吸血鬼まで選り取りみどり。  ですが、彼女らは人里にそう干渉することはありません。  それに、人間に味方するほぼ人外に近い巫女という抑止力もあります。  ギリギリのバランスですが、ある種の意味においては人外と人間は共存できているのです。  だからこそ。だからこそ、バランスを崩し兼ねない異端には厳しいのでした。  例えば妖怪を殲滅してしまえと叫ぶ者は人知れずいなくなってしまうし―― ――例えば狂った魔女は、即座にその存在を消されます。  ゆえに、アリスは今、広場の真ん中で磔になっているのでした。 「やめてェ! やめてよォ! 私が何をしたっていうのよォ!」  狂った魔女が何事か叫びました。魔女の言葉に、群集は黙り込みます。ですが、すぐにその一人が声を上げました。 「お前が狂ってしまったからじゃないか!」  そうだそうだと、他のものたちも口々に叫びだしました。 「朝食を夜に食べ!」 「昼食を朝に食べ!」 「夕食を昼に食べたじゃないか!」  そう、アリスは突然、常日頃と違うことを始めたのです。正常と違う、それは異常に他なりません。  それゆえ、アリスは人外人間の両方から狂ってしまったと判断されたのです。 「朝に食べるから朝食でしょう!? 昼に食べるから昼食でしょう!? 夜に食べるから夕食でしょう!  私は狂ってなんかいない、貴方たちが勝手にそう決め付けただけ! 狂っているのは貴方たちよ!」  なんということでしょうか、アリスは群集を狂っていると言い出しました。  これこそまさに狂気の沙汰、群集はますます震え上がりました。 「「「狂っている! 狂っている! 狂っている!」」」  群集が再び叫びだしました。その声量は、どんどん大きくなっていきます。 「「「「狂った魔女を殺せ! 狂った魔女を殺せ! 狂った魔女を殺せ!」」」」  叫びに推されるように、執行人がアリスの足元の焚き木に火をつけました。 「熱いィッ!!! 熱い熱い熱い熱いぃ!!」  盛大に燃え上がった炎に炙られ、狂った魔女が悲鳴をあげました。 「燃えろ狂った魔女!」 「燃え尽きろ邪悪な魔女!」 「「「「「「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」」」」」  群集たちの呪詛が油を注いだかのように、アリスの体はあっという間に燃え尽きてしまいました。  残るのはアリスだった灰だけです。狂った魔女はいなくなりました。めでたし、めでたし。 あとがき 答えはアリス。みんながそう言っているんだからそうに決まってる。