――朝を告げる鶏の声と台所で鳴る包丁の音で、人里に住む平凡な男は目を覚ました。 今日も家族のために一日農作業だ、頑張ろう。そう呟いて、ゆっくりと体を起こす。 水場で顔を洗って目をすっきりさせた頃には、既に彼の妻が朝食の準備を終えていた。 「あ、おはよう、貴方。ご飯、もう出来てるわよ」 「おはよう。いただくよ」 妻と軽く言葉を交わして、男はちゃぶ台の傍に敷かれた座布団にどっかりと座った。 彼の横にはいつものようにぐっすりと熟睡している達磨アリスが横たわっていた。 よっこらせ、と息を吐きつつ、男の対面に妻が座り、男に向かって何か大きなものを差し出した。 「はい貴方、ドリル」 「ありがとう」 にっこりと笑う妻からドリルを受け取った男は、早速アリスの後頭部にそれを当てて、スイッチを入れた。 「え、何、何の音? ……!? いや、何これ、なんで私の手足がががががががががががががが」 ぎゅるぎゅるぎゅるという音と共にドリルが回転し、その刃がアリスの頭の皮と頭蓋骨をぐじゅぐじゅと穿った。 絶妙に致命傷を避けつつ、ぽっかりと開けられた穴に、男は今度は太目の棒をぐぬりと突き入れた。 「ぴ、あぎゃ、な、に、こ、ぴぎゅ」 そのまま、男はぐちゅぐちゅとアリスの脳みその中で棒をかき回した。その痛みと刺激で、アリスの顔はぐちゃぐちゃになっていく。 目からは涙が溢れ、殆ど白目。口はぽかんとだらしなく開き、鼻からはあり得ない量の汁が垂れている。 気にした様子もなく、男は更にかき回す速度を上げた。 「あ、やめ、やめ、て、うじゅ、ぎゃぼ」 アリスの目玉がぐるぐると回り始める。口は顎がはずれるのではないかと思うほど開かれていった。 それでも男はまるでアリスの脳みそをぐちゃぐちゃにしていく。 「あー、あーあー、ぬ、あ、あっ」 アリスの意識を形成する何かがつぶれ、目を完全に白目にして、彼女は絶命した。そこでようやく、男の手が止まった。 「こんなもんかな?」 「えぇ、そうですね。はいストロー」 「ありがと」 そういって男は先ほどの穴に太めのストローを差し込んだ。そして、先を口で咥え――ジュルジュルと吸い出した。 半液体化したアリスの頭の中の『モノ』が、ストローを通して男の口の中へと入っていく。 ある程度吸い込んだところで、男は口を離してもしゃもしゃと租借しはじめた。 それをごくりと飲み込むと、男の顔がぱぁーっと明るくなる。 「いやぁ、やはり旨いな、アリスジュース! 今日も一日頑張ろう、って気になるよ」 「ウフフ、しかも今日のは永遠亭印のクローンアリスなのよ。美味しいに決まってるわ」 ウフフ、アハハと夫婦が楽しそうに笑う。これは人里ではよくある風景、いつもどおりの平和な日常の朝――のはずだった。 「やれやれ、こんなアリスジュースをうまいと言っているようじゃ、ほんとに頑張れるかかどうか怪しいもんだ」 「だ、誰だお前!?」 突然、夫婦以外の声が家に響いた。 「明日もう一度この家に来てください。こんなアリスジュースよりずっとうまいアリスジュースをご覧に入れますよ」 ――『激動!アリス料理大決戦!』編に続かない