「はぁ……はぁ……」 咲夜は図書館で、深い深い絶望に暮れていた。 そんなつもりはなかった。夢だ。これは夢だ。ひたすらに、咲夜は自分に言い聞かせる。 だが、現実には彼女の目の前には。 既に死体となってしまったパチュリーが、横たわっていた。 今日は小悪魔は休暇を取っていた。 契約で結ばれた縁であるはずなのだが、パチュリーは小悪魔の申し出を受け入れた。 たまには羽を伸ばさせてやってもいいだろう、そんな気持ちだったのだろう。 小悪魔の代わり、つまり、紅茶を入れたり掃除をしたり、頼まれた本を探し出して持ってくるといった仕事は、咲夜がやることになった。 本来の主であるレミリアは親友のためにあっさりと咲夜を貸し出した。 しかし、図書館に詳しい小悪魔とはやはり勝手が違うのか、図書館の掃除は咲夜にとって中々の労働だった。 しかも彼女は細かいところまで目がいく。本棚の上の埃も我慢ならなかった。 空を飛んで本棚にのり、その上の埃を綺麗に掃除していたのだが。 つい力を入れすぎたのか、本棚の上に乗ったのが悪かったのか。 はたまたその前に本を掃除しようと中身をすべて取り出していたのが悪かったのか。 本棚が、倒れた。それだけならば何も問題はなかった。だが。 その倒れた先に――パチュリーが立っていた。本を投げ出した咲夜に文句を言おうと立っていたのだ。 ゆえに、パチュリーはその突然の出来事に気を取られ、避けることもできずに本棚につぶされた。 ただでさえ体の弱いパチュリーに、その衝撃は彼女の命を奪うには、十分過ぎるものだった。 「どうしよう……どうしようッ……!」 完璧で瀟洒な従者であるはずの彼女の顔は、醜く歪んでいる。 パチュリーは咲夜の主の親友である。事故とはいえ、咲夜が殺したも同然だ。 主は咲夜を許すだろうか?否、一片の悔いも感情もなく、ただ怒りと哀しみに駆られ咲夜を殺すだろう。 それだけは、咲夜にとって避けねばならなかった。死ぬのはもちろん怖い、が、それ以上に。主と離れたくなかったのだ。 咲夜は、人を殺したはずの咲夜は、ただ主と離れたくない、それだけの理由で。 死体を、隠すことに決めたのだった。 死体の処理は簡単である。 紅魔館のすぐ目の前の湖にでも沈めればいい。あそこはとてつもなく広いし、深い。 近づくものも紅魔館のものを除けば少ないし、あの辺で遊んでいる氷精も、まさかあの深い湖の底に潜ったりもしないだろう。 そんな手段をあっさりと考え付くほど咲夜は主を敬愛していたし、何よりも狂気染みていた。 狂気に理性と良心が叶うはずはない。悪魔の狗である咲夜には――狂気の素質が、最初からあったのである。 しかし、昼間から死体を捨てに行くわけにもいかない。誰に見つかるか分かったものじゃないし、 何より氷精が邪魔だ。夜以外はいつもあの辺にたむろしているのだ。 よって咲夜はとりあえず死体を自分の部屋に置いておき、夜中に処理を行うことにした。 咲夜の部屋は図書館からそう遠い距離ではないし、彼女は意外と力があったため、あっさりと部屋に着いた。 部屋のベッドの下にとりあえず死体を置いた彼女は、安堵の息をついた。 あとは夜まで瀟洒に仕事をすればいい。 そうだ、あとでパチュリーの行方不明に皆が気づいたら私は粗相をして追い出されたことにしよう。 ……まてよ、小悪魔も消したほうがいいのではないだろうか? もし小悪魔がいなくなれば。普段から図書館から滅多に出てこないパチュリーは不在に気づかれないかもしれない。 時々お嬢様が気まぐれにパチュリーをお茶に呼ぶこともあるが、断ることも少なくない。 お嬢様がパチュリーを呼ぶよう私に申し付けてきたら、図書館まで言って周りのメイドたちに見せ付けるようにドアをたたき、 そのあとお嬢様のところに戻って返事がありません、寝ているようです、とでも言えばいいのだ。 いつ失踪したか、わからないほうが、きっと。 私には、有利に事は運ぶだろう。 咲夜はいつも以上に、冷静だった。冷静に、更に殺害する人間を増やそうと考えていた。 門の方からあの声が聞こえるまでは。 「マスタアアアアアアアスパアアアアアアアアアアアアアックッ!」 「ちょ、何でえええええええええええええええええええええ!?」 「ま、りさ……」 咲夜は冷静、のはずだった。だが、やはり脳のどこかが壊れていたらしい。 白黒の泥棒魔法使い――魔理沙の存在を忘れていたのだから。 何故彼女は魔理沙が来たぐらいでこんなにも動揺しているのか? 以前、パチュリーが寝ていて図書館にいないことを伝えたときは、 わざわざ図書館の中にある部屋に、鍵を壊してまで入っていったことがあった。 再びそれが繰り返される可能性もある。そうすればパチュリーの失踪がバレてしまうかもしれない。 死体はまだ咲夜の部屋にある。魔理沙が妙な気を起こして彼女の部屋を探索しないとも限らない。 よって彼女は、侵入者である魔理沙を全力で止めることに決めた。 魔理沙が箒に乗って空を飛ぶ音を待ち、部屋の前近くに来たところで廊下に飛び出した。 「よう、メイド長」 「こんにちわ、泥棒猫。来たばかりで申し訳ないけど死なない程度にやられて帰ってもらおうかしら?」 「……は?今日は私は客として呼ばれたはずだが。まぁ、つい癖で門番にマスタースパーク撃っちまったが」 魔理沙のその言葉に、咲夜に再び動揺が走った。 そうだ、私としたことが忘れていた。 今日はお嬢様の気まぐれで魔理沙とフランドール様を交えてお茶会をする予定だったのだ。 だが、不幸中の幸いか、何故かパチュリー様は呼ばれていない……。 この分なら魔理沙は図書館へは行かないだろう。 何も、問題は、ない。 「あら、そうだったわね。こっちよ、着いてきなさい。あ、その前に図書館へ行ってみる? パチュリー様が昨日魔理沙用の超強力な罠を作ったって言ってたわよ。 なんでも360度から当たり判定を最大までパワーアップさせた大玉が飛んでくるとか。しかも見えないらしいわよ?」 「……そいつは勘弁だな」 彼女はあえて図書館のことを口に出した。 魔理沙の普段の行動からして、私のこの発言はいたって違和感のない台詞だ。 何故なら魔理沙は大変な天邪鬼だから。「行くな」と言ったら行くに違いないもの。 逆に「行けば?」といっておけば彼女は行かない。大丈夫、大丈夫……。 思わず魔理沙に背を向けた咲夜の顔に笑みがこぼれた。 魔理沙が、やけに動揺した咲夜に、彼女自身でも気づかないほど小さく、心の奥に不信感を抱いているとも知らずに。 △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△ 「うーむ、やはり咲夜の紅茶は美味いな」 「当たり前でしょう、紅茶を美味しく淹れられない瀟洒な従者がいるもんですか」 「ありがとうございます、お嬢様」 「さくやー、クッキーまだー?」 「まぁまぁ、フラン、こういう場ではお菓子よりお茶を楽しむもんなんだぜ」 「むー……魔理沙がそういうならいいけどー……」 咲夜につれられ、魔理沙は中庭を一望できる紅魔館のテラスで、レミリア、そしてフランドールともにお茶を嗜んでいた。 本来、この場に咲夜はいないはずではあったが、レミリアには既にパチュリーに追い出された胸を説明していた。 「そうだ、一つ聞いていいか?レミリア」 「何かしら?」 「なんでパチュリーが呼ばれてないか疑問なんだが、なぁ咲夜?」 突然、話を振られたことで、咲夜は内心動揺した。 「そ、そうですわね。私も聞いておりませんでしたが。何故です?」 「だって魔理沙が来るとパチェったら本しか読まない振りして魔理沙しか見ないんだもの。 親友の私としては妬けちゃうのよ、そういうの」 「もてる女はつらいぜ」 「はいはい」 完璧で瀟洒である咲夜は、妹様も、お嬢様の存在を忘れて、お菓子か魔理沙しか見てませんよ、とは言えなかった。 「しかしまぁ……ということは、あいつはまた図書館に篭ってるわけか?」 「そうね。というかそれ以外に行動の選択肢がないと思うわ」 「ふっふっふ……」 「わー、魔理沙が悪そうな笑み浮かべてるー」 一体どんなことをしでかしてくれるのだろうか、と、フランドールは多大に、レミリアは少々の期待を魔理沙に寄せていた。 幽閉されていたフランはともかく、何百年も生きてきたレミリアには日常の中の小さい異変も退屈を消去するには大切なものなのだ。 だがしかし、咲夜は、思わず、魔理沙の発言を受け、一瞬だけ恐怖の表情を浮かべてしまった。 レミリアとフランは位置的にその顔を窺い知ることはできなかったが――魔理沙は、その顔をはっきりと認識してしまっていた。 (咲夜……さっきから、おかしいな。パチュリーに関する話題を出すと動揺している気がするぜ……) 先ほど抱いた小さな不信感は、どんどん大きくなって、魔理沙の好奇心を刺激するほどにまでなった。 だからこそ、頭に浮かんだともいえる思い付きを、彼女は3人に披露することにした。 「パチュリーは地下の図書館に篭って日の光を浴びてない。 そこでッ!私の火力とッ!フランの火力でッ!図書館の天井に穴を開けるッ!」 「ちょ、魔理沙何を言って……」 「面白そうね」 「おもしろそー!」 「急に日の光を浴びてしまったパチュリーがッ!いったいどんなことになるのかッ! その疑問は私の好奇心を刺激するッ!この案に賛成するものはッ!手を上げるがいいッ!」 「「はーい」」 幼女二人が元気に手を上げた。しかし……咲夜は。 ただ、震えていた。 「うーむ。主のレミリアと火力のフランがいれば実行できる計画だが。どうやら咲夜は反対みたいだな」 「あら、咲夜は私の従者よ、命令すれば簡単に手を上げてくれるわよ?」 「それじゃあ民主主義に反するぜ」 「みんしゅしゅぎってなにー?」 「ソビエト辺りでは幻想入りしていたのものよ」 「ソビエトって何ー?」 「んー……お菓子の一種だと思うわ」 「ふーん。なんかしょっぱそうだね」 「今度咲夜に作ってもらいましょう」 「わーい」 「……と、とにかくだ、こういうのはちゃんと説得して手を上げさせたほうがいいんだぜ! ちょっと席を外して二人で話し合うから待っててくれ」 「はいはい」 「はーい」 △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△ 魔理沙と咲夜はテラスから出て、誰かから話を聞かれる心配のない空き部屋に移動した。 その間、咲夜はひたすらに無言だった。頭をフル回転させて、魔理沙の説得をしようとしていたからだ。 だが、空き部屋に入って魔理沙が最初に言った言葉は…… 「何があった?いや、何をした?」 だった。咲夜の目が大きく見開かれる。だが、既に狂ってしまっている彼女はすぐに冷静さを取り戻した。 「……なんのこと?」 「さっきからおかしいぜ、お前」 「気のせいよ」 「さっきからパチュリーの名前や図書館のことを言うたびに動揺してるじゃないか」 「気のせいだって言ってるでしょ?」 「チッ」 「気が済んだかしら?それより、貴方。図書館に穴を開けるなんてやめてほしいわ。誰が修理すると思ってるの?」 「図書館に穴を開けて欲しくない理由……何か他にあるんだろ?」 「なんのことかさっぱりわからなんだけど?」 「パチュリーに何か、したんだな?」 「何故そんなことを?」 「さっきお前、パチュリーに図書館を追い出されたって言ってたな。 パチュリーに何かがあったか、パチュリーが何かをしたという可能性は少ない。 パチュリーが何かをして、それを知っているなら、追い出されるだけで済むとは思えない。 それに今日は小悪魔がいないんだろう?さっき外で会ったぜ。 今までの経験からして妖精メイドたちは侵入者でも来ない限り図書館には行かないし、 必然的に図書館にはお前とパチュリー二人だけになる」 「そうかしら」 見た目は飽くまで冷静であったものの、咲夜は焦りを感じていた。 「ということは、パチュリーに何かあったのなら……それをお前がレミリアに黙っているはずもない。たとえ口封じされてもな。 ゆえにお前がパチュリーに何かしたんだ。そして図書館から追い出された――いや、追い出されたことにしたのか?」 魔理沙がそこまで喋ったところで、咲夜は覚悟を決めた。悪い意味での覚悟を。 「…………そこまで言うなら、パチュリー様に会う?」 「え?」 「だから、そこまで疑うなら。今から図書館に行きましょう」 「あ、あぁ……」 咲夜と魔理沙は図書館へと移動した。 魔理沙の顔は混乱しきっているのが目に見えて分かるほど呆けた顔をしている。 「着いたわよ?」 「? 誰もいないじゃないか」 「あの本棚の後ろで寝てると思うわ」 「寝てるぅ……?」 怪訝な顔をしながらも、魔理沙は本棚へと歩いていった。だがそこにはもちろん誰もいなかった。 ……魔理沙は、言ってしまえば油断していた。 咲夜がパチュリーに何かしたんだとは思っていても、まさか殺しているなどとは思ってもいなかった。 それに。 まさか自分のことまで殺そうとまで思っているなんて。 咲夜は、魔理沙の目の前の本棚の裏から、それを思い切り押した。 本棚は綺麗に倒れていき――魔理沙を押しつぶして、その命を簡単に奪った。 彼女は、また一人、殺したのだ。そして―― 「あ゙ははははははははははははははははははッ!」 狂ったように、笑い出した。 何も問題はない。魔理沙と自分が話し合っているときに本棚が倒れ出したとでも言えばいい。 さっきのパチュリーの死体もここに持ってこよう。そうね、ついでに妖精メイドを一人連れてきて殺しておきましょうか。 妖精メイドがシフトを間違えて図書館の掃除に来た。しかしうっかり本棚を倒してパチュリーを押しつぶした。 混乱して追加でもう一つ倒して、それで魔理沙を押しつぶした。二人を殺したメイドは私が虐殺した。 これでいい。完璧。完璧な筋書きだわ。あ゙はははははははははははははははははッ! 静かに、しかし狂気染みた笑い声を上げる咲夜の顔には、知っている人間を二人も殺してしまった罪悪感からか―― 涙が一筋、流れていた。 △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△ 「はっ……」 魔理沙は、目を覚ました。 嫌な夢だった。私が咲夜になってパチュリーと私を殺した夢……まったく、やけにリアルな夢だったぜ。 「起きたかしら?魔理沙」 「え……?」 パチュリーの声が聞こえて、魔理沙は辺りを見渡した。 そう、そこはパチュリーが管理する図書館の中だった。 あの夢と同じ本棚に寄りかかって、自分は寝ていた。 ふと彼女は、自分の目の周りがやけに痒いのに気づいた。 触れてみると――液体の感触がした。涙だった。 (あんな夢みたせいで泣いちまったのか、私は……) 「夜になったわ。行くわよ」 「は……?何処へ?」 魔理沙のその質問は、パチュリーを怪訝な顔にさせた。 「何を言ってるの?まさか、現実逃避して忘れたふりしてるの?」 「え」 そういえば、何故自分はここにいる?魔理沙は自らの過去を振り返った。 いつものとおり、図書館に本を借りに来た。 美鈴を倒し、メイドたちを蹴散らして図書館に到着。咲夜には会わなかった。迷惑そうな顔をしながらも、パチュリーは私にお茶を淹れてくれた。 小悪魔が休暇を取っているという話で、彼女が代わりに淹れてくれたのだ。味は中々だった。そこに咲夜が来た。すごく怒っていた。 ひさしぶりに休暇が取れて、それが偶然にも美鈴の休暇と重なっていた。 よって二人で仲良く買い物にでも出かけようとしていたのが、 私に倒されて完治まで3日が必要になってしまい、予定が潰されてしまったのだった。 ゆえに今日の弾幕ごっこはいつもより激しかった。図書館でおっぱじめたため、パチュリーが涙目だったのが印象的だったな。 そして、私は咲夜の残りのスペルカードを確認して――マスタースパークを放った。 咲夜は耐え切れず吹っ飛んで―― そこまで思い出して、魔理沙は一気に顔を青くした。 そうだ、思い出した。吹っ飛んだ咲夜は本棚にぶつかったのだ。 その勢いで本棚が倒れ、咲夜を押しつぶしたのだ。そして彼女はそのまま死んでしまった。 咲夜の亡骸を抱きながら、私は懺悔と後悔の言葉を何度も口にした。そこにパチュリーがやってきて…… 死体を隠す必要がある、そう言ったのだ。貴方を殺人犯には絶対にしないわ。そうも言った。 その言葉を聞いて私が更に泣き出して――パチュリーは私に眠りの魔法をかけたんだった。 夜中にこっそりと湖にでも死体捨てるつもりだったらしいから、眠らせるという手段は丁度よかったのかもしれない。 「あ……あぁ……」 「思い出したみたいね?」 「うぁ……うぅ……」 「魔理沙」 「ひっく……なんだよ……?」 「私は貴方が嫌いじゃないわ。だからこそ、貴方を殺人鬼にするには余りにも寝覚めが悪いわ。 でも、安心して。貴方は私が守ってあげるわ」 パチュリーの言葉は、魔理沙にとって、救いとなる言葉だった。 だが。 パチュリーの笑みは、魔理沙にとって、あまりにも邪悪だった。 パチュリーはこの件を盾に永遠に魔理沙を自分のものにするつもりであった。 そして魔理沙は――その好意とその行為に気づいてしまった。ゆえに。 ・・ あの夢の咲夜と同じように、脳のどこかが狂った。 そして、魔理沙はあの夢と同じように、そして咲夜の死と同じように―― パチュリーを押し倒して、本棚に頭をぶつけさせた。 いきなりの衝撃にパチュリーがフラフラになっていることを確認した上で。 すばやく本棚の後ろに周り、それに思い切りの体当たりをぶつけた。 本棚は綺麗に倒れ……パチュリーを押しつぶし、その命をあっさりと奪った。 これで筋書きはできた。パチュリーが咲夜と喧嘩した。 喧嘩の理由は私が侵入してきたことにパチュリーが咲夜に文句を言ったから。 咲夜は攻撃を喰らって本棚にぶつかり、そのせいで倒れた本棚に押しつぶされた。 そのときその本棚の近くで戦っていたパチュリーは、一緒に押しつぶされてしまった。 私は本を何冊か盗んで誰にもみつからないように紅魔館から出て行けばいい。 いつ帰ったかなんて誰にも分からない。それに、まさか私が二人も殺したなどとは誰も思わないだろう。 完璧だ。完璧だ。あ゙ははははははははははははははははははははは! その笑い声は、腹の底から、とてもとてもユカイそうに、溢れ出ていた。 しかし……その顔には、涙が一筋流れていた。 △△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△ 「はっ………………」 パチュリーは目を覚ました。すごい量の寝汗が流れていた。 「夢、か……。なんであんな夢を見てしまったのかしら?」 そうつぶやくと、寝ぼけてまだぼうっとしている頭で、周りを見渡した。 そして――小さく悲鳴をあげた。目の前には魔理沙の死体が転がっていた。 そうだ、図書館に本を盗みにきた魔理沙を止めようと押し倒したら、 本棚にぶつかって、その本棚が倒れて彼女の命を奪ったんだった。 絶望の余り、放心しているうちに、眠ってしまっていたようだ。 そうだわ、死体を、死体を何処かで処理しなきゃ。小悪魔が休暇を取っていてよかった。 うまくいけば、誰にも見つからないよう死体を何処かに埋めてくることもできる。 あぁでも、そうね。願わくば―― 願わくば、私が夢の住人でありますように。 「っていう夢を見たんですよ、あぁ怖かった」 「へぇ〜……。(超どうでもいいわ) ところで小悪魔、最近……魔理沙を見ないんだけど?」 「私は夢の住人じゃなかったってことですよ。 考えてみれば、私に、休暇なんてもらえるわけなかったんですよねー」 遠い目をしながら、小悪魔はやけに傷の多い本棚を見ていた。